インドでミュージシャンとして活動することの難しさ
ミュージシャンとして活動を続けていくことが難しいのはどこの国でも同じかもしれない。金銭の問題や演奏・レコーディングする場所の確保など様々な障壁がある。けれどもインドではそれらの問題の難易度が一気に上がるようだ。
アーティストに対して予定通りにギャラが支払われない。演奏場所が少ない。会場に対する法律規制が厳しいなど、インドのアーティストが直面している問題は様々。シーンの第一線で活躍する有名アーティストでも全く例外ではないよう。南アジアの音楽シーンを紹介するメディア”BORDER MOVEMENT”などでその模様が紹介されていた。
※参照資料
・STEPS TO PROFESSIONALISING INDIA’S MUSIC INDUSTRY
・“Independent Artist Concern in the Indian Music Industry”
■ギャラが期限通りに支払われない
アーティストに対するギャラの振込が演奏の半年後というケースは全く珍しくないそう。「これは昔からある問題だ。でも最近ではギャラの前払いが徐々に一般的になってきたことで、少し改善されてきた」とある関係者は話す。ベンガルールを拠点とする人気エレクトロユニットSulk Stationのメンバーの一人は、「ギャラが期日どおりに支払われることはほとんどない。何ヶ月も数え切れないほど催促のメールを送った末にようやく支払われる」と漏らす。
仮に支払われた場合でもギャラの満額とは限らない。主催者側がなんらかのコストを主張してピンハネしたり、彼らの経済事情の悪化によって払いたくても払えない状態になることもある。主催者側の経済状況も苦しいようだ。
デリーのスカバンドSka Vengersのメンバーである音楽イベントを主催するStefan Kayeは、経営状況の悪化によってイベントの終了を余儀なくされた。
「会場の規模が小さいため利益が出ない。フライヤーやプロモーション、サウンドエンジニアへの支払い、アーティストへのギャラを除くと、会場が満員でも赤字になってしまう。入場料を取ることも考えたが、周りのイベントは無料だったため難しかった」。
ギャラの未払いが起きたからといって、ミュージシャンが支払い主を相手に訴訟を起こすことも難しい。ギャラの額や支払い期限などに関して業界水準が定められていないためだ。「アーティスト側ができることがあるとすれば、自らの主張を書面に記し、弁護士を通じて支払い主に送付することで圧力をかけることくらいだ」(芸能関係の弁護士)。
■演奏会場が足りない
ある調査によると、回答したミュージシャンの90%が、演奏できる会場が足りないと訴えている。多くの質の高いアーティストが、あまり環境の整っていない会場での演奏を余儀なくされているようだ。
そもそも会場の数が少ないことに加えて、会場側が地元以外のアーティストの出演を渋る傾向にあるという。「地元であまり知られていないアーティストによる出演を主催者側がリスクと感じてしまう」(前述の弁護士)。会場の確保が難しい、経済状況が苦しいといった要因が重なることで、アーティストにとってインド国内の都市をまたがったツアーを実施することが難しい状況にある。
またインドにはイベントの運営を妨げるいくつかの法律が存在する。たとえばアルコールを提供する会場での音楽の演奏やダンスの禁止や、深夜12時以降の運営の規制など。この種の法律で最も悪名が高いのはカルナータカ州ベンガルールの法律で、ライブ演奏を「迷惑な騒音」だとして様々な規制を設けている。警察がライブ中の会場に乗り込んで演奏を中止させることもあるようだ。
■イベントの告知が難しい
イベントをどうプロモートするかもアーティストの悩みの種。会場側が制作したフライヤーに掲載されている情報が間違っていたり、イベントのプロモーション活動が開催の数日前になってようやく始まることもある。
そのような状況の中、今のインドで効果的なプロモーションとはどのようなものなのか?ある関係者はこう語る。「ネット上での告知は主な手段の一つだが、Facebookでの告知の効果は確実に減少傾向にある。フライヤーも良いが、都市の規模が大きいとそれだけでは足りない。また新聞広告は高すぎて手が出ない。ラジオの効果は上がっている。新旧のメディアを組み合わせてバランス良くプロモーションしていく必要がある」。
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