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インドのインディーミュージックシーンは活況を呈し始めている。過去数年間で次々と新しいアーティストが登場。ボリウッドソングや伝統的な音楽ではないロックやエレクトロニックミュージックなどのジャンルで、こんなに格好いい曲を作るミュージシャンたちがインドにいるのかと驚かされることも多い。

ただシーンが成長しているとはいえ、インドの音楽業界の中ではまだまだマイナーな存在で、ファン層も限られる。またギャラの支払いの遅延や、演奏する会場の不足など、アーティストたちが満足に活動できる環境が整っているとはいえない。

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K J SinghとAmanda Sodhiの2人は、そうしたインドのインディーミュージックシーンが抱える問題点を広く発信し、解決のためのサポートを呼びかけるために、ドキュメンタリー映画”Attention Please!”の制作を進めている。

Singhは、過去30年間インドの音楽業界に携わってきた人物で、現在はAsli Musicというレーベルを運営。Amandaは“The Acoustic Girls”というバンドでボーカルを務めるほか、Wishberryというインド最大のクラウドファンディングサービスでPRマネージャーとしても働いている。

今回はそんな2人へのインタビュー記事”ATTENTION PLEASE! SAY AMANDA SODHI & K J SINGH“の内容を翻訳してご紹介。海外からは中々みえないインドの音楽シーンの現状について、関係者ならではの生の声が詰まっていて面白いです。

このインタビューを実施したインドの映画ニュースサイト”Pandolin”から、翻訳・転載許可をいただくことができました。映画愛にあふれた人たちが作っているサイトなので、インド映画好きの方はぜひ覗いてみてください。

■Pandolin
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“Attention Please!”というタイトルは、人々の注目を集めるコピーとしてぴったりだ。これはミュージシャンのAmanda SodhiとK J Singhが現在制作中のドキュメンタリーのタイトル。今回はインドのインディーミュージックシーンについて熱い想いを持つ彼らに話しを聞いた。

“Attention Please!”を制作しようとしたきっかけは何ですか?

K J Singh(KJ):これまでインドのインディーミュージックシーンは、ラジオとテレビという露出の大きい2つのメディアで全く扱われてこなかった。若い子たちは仕事のかたわらに音楽に取り組んでいるが、彼らに対するサポートは全くない。今こそ彼らの現状や意見を広く発信する必要があると思ったんだ。

Amanda Sodhi(AS):なぜインドのインディーミュージックシーンで生き残ることがこんなに難しいのか?なぜシーンが中々発展しないのか?ということをもっと理解したかった。それと少し個人的な理由もある。海外からインドに帰国してシンガーソングライターとして活動しようとしているタイミングなので、この国のインディーシーンで何が起こっていることついてもっと理解したかった。過去数年間ジャーナリストとしてインドのシーンに関わってきたけれども、そこで得たスキルや音楽への想いを活かせるので、とてもやりがいがあると感じている。

“Attention Please!”(もっと注目を!)とありますが、具体的に誰の注目が必要なのですか?

KJ:10億人を超えるインドの人々による注目が必要だ。彼らの音楽への関心は多種多様になりつつある。それと政府による関心も重要。映画音楽以外のシーンをサポートする法律の制定に向けてロビー活動をしていきたい。さらにインディーミュージックシーンの中の人々の間でも、問題意識を共有していきたい。

AS:インドのインディーミュージックシーンについて、国内だけでなく全世界からの注目を集めたい。なぜならインドの音楽産業の中でとても重要なジャンルにもかかわらず、スポットライトがあまり当たっていないからだ。

今回のドキュメンタリーは、何人で制作したのですか?

KJ:カメラマンとサウンドエンジニア、アシスタントの3人のクルーで撮影を進めた。

ドキュメンタリーでは、かなり影響力のある人々へのインタビューに成功しています。どのように実現したのでしょうか?

KJ:この業界に30年もいることが大きいかもしれない。取り組みの主旨や、彼らの意見が特集される初めての機会だということを理解してもらうことで、協力してもらうことができた。

AS:シーンの人々は信じられないくらい協力的だった。カメラの前で自身の考えや経験を時間をかけて語ってくれた。結果的に、われわれは皆シーンの一部であり、このジャンルの成長を願っているのだということが伝わる内容になったと思う。

ドキュメンタリーの構想から撮影開始までにどれくらい時間がかかったのでしょうか?

AS:アイデアについて話し合った日から数日以内に、KJと私で質問の作成や、話しを聞きたいバンドやサウンドエンジニア、レーベル、アーティストのマネージャーたちにインタビュー依頼を送った。撮影開始には2週間もかからなかった。撮影の資金を提供してくれた(映像制作会社の)August Moon Productionsのおかげね。

2人でのコラボはいかがでしたか?

KJ:言い争ったりすることは全くなかった。Amandaはとても集中力があって真面目なだけでなく、この種のドキュメンタリーを作るのに必要なちょっとした怒りも持ち合わせている。

AS:KJ は素晴らしいサウンドエンジニアでありプロデューサーであるだけでなく、心強いメンターでもある。プロジェクトは終始スムーズでストレスなく進めることができた!彼のサポートや励まし、知識がなかったらこのドキュメンタリーは作れなかったと思う。

編集作業はどのように進めるのでしょう?脚本に忠実にするのか、それとも編集作業の中で練っていくのでしょうか?

AS:聞きたい質問がたくさんあるとはいえ、この映画は会話やストーリーがあらかじめ決まっているフィクションではない。インタビューを通じてインディーミュージックシーンについて知りたいことがたくさんある。撮影した映像の編集作業を今後進める段階。60時間以上の貴重な映像が撮りたまっているからね!

あなた達は何かに熱中するととても精力的に活動しますね。編集作業は順調に進みそうでしょうか?観客の注意を引き続けるために、有用な情報を切り捨てざるを得ない場合はあるのでしょうか?

KJ:現在は撮影後の作業や、映画祭・イベントでの上映に必要な資金をクラウドファンディングで集めている。数週間以内には編集作業に取り掛かりたい。確かに60時間以上もの映像の中から90分の作品を切り出すことは、かなり難しい作業になるだろう。撮影した映像を様々な視点から見直したいので、外部のエディターにも協力してもらう予定だ。

AS:本編の編集はまだだが、予告編の編集にとりかかっている。90分の映像に全ての要素を盛り込むことがムリなのは明らか。ドキュメンタリーの核となるメッセージが伝わるように、注意深く作業しなくてはならない。

海外のバンドの場合だと、ライブを行うことが楽曲の販売増につながったりしています。インドでもNH7のようなロックフェスに出演することによって、インディーアーティストやバンドが自身のライブチケットやDVD、楽曲の販売を増やすことができているのでしょうか?それともフェスでの注目だけにとどまってしまうのでしょうか?

KJ:重要なのはそこに”発見”があるかどうか。一つのバンドやアーティストの演奏をみるだけで終わってしまうのか、思いもかけないジャンルのアーティストとの出会いがあるのか。ロックフェスでいえば、幅広い年齢層の人たちが集まるため、新たなファン層を開拓できるチャンスは大きい。

AS:インドのアーティストの多くは、自身のファンを増やすことに慣れていないように思う。彼らはソーシャルメディアやPRに不慣れだ。ライブに客を呼べるよう工夫できるアーティストは、ごく最近デビューした新しい世代に限られる。それと海外からのアーティストのライブのほうが人気な理由は、彼らがインドで演奏する機会が限られるからだ。もしあなたの地元で好きな海外アーティストが初めてライブを行うことになったら、なんとしても行きたいと思うだろう。これを逃したら、そのアーティストが次に来てくれるのはいつか分からないからだ。地元のアーティストのライブだと、多くの人は当たり前すぎると感じるだろう。ロックフェスは、思いがけない発見を提供することで、アーティストとオーディエンスをつなげる役割を果たしていると思う。例えば好きなロックバンドの演奏のためにNH7に参加した場合でも、それまで知らなかったフォークシンガーを知ることだってある。

今回のドキュメンタリーのメッセージを一言でいうと?

KJ:インドの非映画音楽(ノンフィルムミュージック)は生き残るために、様々なサポートを必要としている。

AS:映画で見せたい点は、インドのインディーミュージックシーンがこれまでどのように歩んできたのか、本来持つポテンシャルまで発展するために克服すべき課題は何なのか、それといくつかのインスピレーショナルなストーリー。

この映画を完成させてあなた達がイメージするようなことを実現するには、さらなるサポートが必要でしょう。これまでの反応は?

KJ:すでにインディーミュージックシーンの内部の人たちに対して、取り組みを支援してくれるよう呼びかけている。これまでに声をかけた人たちからは、とてもポジティブな反応が返ってきている。

AS:作品を完成させて上映までこぎつけるための資金提供を呼びかけている。どのような支援でもありがたい。これまでに声をかけた近しい人たちは、とても親切に励ましてくれた。

フィルムメーカーやライター、ジャーナリストなど、あなた方はメッセージを発信するためのノウハウを持っています。これから活動するミュージシャンたちは、どのように自分たちを発信していくべきだと思いますか?

KJ:(インドの人気ロックバンド)Indian OceanのRahul Ramはインタビューの中で、「可能な限り多くのライブをこなすことだ」と話している。色々な会場や都市、クラブ、フェスを周って演奏し、ソーシャルメディアを使ってファンと交流することが最も重要だ。TwitterやFacebook、YouTubeもしくはVimeoを使うべきだ。

AS:アーティストは次の2つに注力する必要があると思う。a)自分たちが信じる音楽を作ること。b)PRやソーシャルメディアを駆使して、積極的にファンを増やしていくこと。多くの質の高いアーティストが日々シーンに登場しているのだから、それぞれのアーティストたちは自身をもっと積極的にマーケティングしていかないといけない。

アーティストたちは、家族からどの程度抵抗されるのでしょうか?そもそもインドではまともな仕事だと受け止められている?

KJ:環境は20年前と比べて変わってはいると思う。サウンドエンジニアリングやプロダクション、DJなどの音楽関連の仕事は、今ではちゃんとした仕事だとみなされている。実際に子どもの将来のために、音楽教育をほどこす親も多い。音楽や音響関連のスクールが増えていることがその証拠だ。それとインド全土で楽器の販売が増えてもいる。

AS:多くの才能ある人々が音楽シーンに飛び込んでいるという現状がある。20年前に比べて、明らかに音楽は価値のある職業だとみなされていると思う。とはいっても、シーンでの仕事が“趣味”ではなく“価値ある職業”とインド全体でみなされるには、まだまだ時間がかかるだろう。

映画の制作中に起こった最も記憶に残った出来事は?

KJ:インディーミュージックシーンの中で伝説的な人物たちに会えたことと、タクシーの中でバンドにインタビューしたことだね!

AS:このドキュメンタリーの制作を始めた時、私は少し難しい時期だったの。だからたくさんのインタビューによって、インスピレーションを受けられたし、物事を整理できた。特に(シンガーソングライターの)Raghu Dixitのインタビューにはインスパイアされた。たくさんの印象的な出来事やインタビューがあった。クルーとも素晴らしい時間を過ごすことができたと思う。

映画の公開時期と場所は?

KJ:2015年9月ごろにはどこかで上映したいね。

AS:海外も含めていくつかの映画祭への出品や、イベントや大学での上映を計画している。

聞き手:Ashwini Kulkarni