DSC_0326

インドのインディー音楽シーンにおいて、クラウドファンディングが盛んになり始めている。

音楽フェスの運営費やアルバム・ミュージックビデオの制作費をはじめ、活動に必要な資金をネット上で不特定多数の人びとから募るのだ。

成功すれば通常では手が届かないような大きな規模の企画が実現できるほか、うまくいけば先進的な取り組み事例として認知を広めることができる点がポイントだ。

数多く並ぶ事例に出てくるアーティストを見てみると、知名度の高いベテランからデビュー直後の若手まで幅広い。

インドは他の国と比べて音楽制作によるマネタイズが難しい。

そんな中、工夫次第で高額の資金調達も可能になるクラウドファンディングは、活動資金の捻出に頭を悩ませるアーティストたちにとって期待の星となりつつある。

最近のインドで起こっているインディー音楽シーンの活発化は、クラウドファンディングの登場によるところが大きいという見方もあるほどだ。

なぜこの時期にクラウドファンディングの活用が増えてきているのか?

2010年ごろからアメリカを起点として起きたクラウドファンディングの波が、インドにも届いたというのが現状のようだ。

Kickstarterなどの主要なサービスがアメリカで創業したのが2008〜09年。その動きに触発されたインドの起業家たちが、2012年以降に同種のサービスを相次いで立ち上げている。現在は約10社の国内企業がしのぎを削っている状態だ。

すでに数多くの活用事例が生まれている。

そこには絵に描いたような成功事例もあれば、あえなく目標の調達額に届かなかった例、さらにはネット上で炎上にまで至ってしまったケースもある。

クラウドファンディングサービスを提供するインド企業と、それを利用して資金を集めるアーティストたち。その両面から、黎明期の現状を追ってみた。

■インド向けクラウドファンディングの特徴

「インドはクリエイターにとって恵まれた環境とはいえません。私たちの親の世代にとって、ライターや歌手、ダンサーなどといったアーティストは無職と同義なのです。社会からの圧力に負けて夢をあきらめるアーティストが多い(中略)。このような状況を変えるために起業したんです」。

インドのクラウドファンディング最大手WishBerry(ウィッシュベリー)の創業者でCEOのプリヤンカ・アガルワルはこう語る。

彼女はマッキンゼーやゴールドマンサックスなどを経て、2012年にこのサービスを設立。アメリカの同業Kickstarterに触発されての起業だった。

クラウドファンディング本国のアメリカと違い、インドではキャンペーンを成功させるために必要なマーケティングスキルを持っている人間が少ない。こう考えるプリヤンカは、インド市場ならではの工夫について、次のように述べている。

「われわれは資金を集める顧客に対してコンサルティングを行います。支援を訴える動画の制作や適切な支援額の設定、ソーシャルメディアを使ったマーケティング、ターゲットの設定まで、必要なノウハウを提供するのです。インドはサービス経済なので、顧客にすべてを任せきりにすることはできません」。

確かに成功の見込みがある程度なければ、クラウドファンディングを試してみようというユーザーは増えない。だからこそ手厚いサポートを提供することで、敷居を下げる考えなのだろう。

ウィッシュベリーCEOのプリヤンカ・アガルワル(右)
from_left_to_right_anshulika_dubey,_coo_and_priyanka_agarwal,_ceo-1421774387

■人気歌手、アルバム制作費の調達に成功

現在のインドで、音楽関連のクラウドファンディングの成功事例とされている取り組みの中には、同社を通したプロジェクトが数多く含まれる。

中でも代表例の一つが、人気女性歌手ヴァスダ・シャルマによるプロジェクト。ヴァスダは2003年に人気オーディション番組でバンドとしてデビュー。数年後にバークリー音楽大学院に留学した後、2013年にソロデビュー作の制作費用をクラウドファンディングで募ることにした。

「クラウドファンディングが浸透していないインドでこういったキャンペーンを行うことは不安でした。かなりチャレンジングだったと思います」(ヴァスダ)。

資金提供者への特典として、アルバムとコンサートのフリーチケットのほか、ヴァスダと一緒に食事できる権利を用意した。

ウィッシュベリーのコンサルのもとで制作したキャンペーン動画

このキャンペーンは開始からたったの約3カ月で、当初の予想を上回る56.5万ルピー(約103万円)を獲得。アルバムの制作費用を補って余りある資金を集めることができた。

彼女の人気・知名度と、ウィッシュベリーのノウハウ。この2つが合わさったことによる成功といえそうだ。

■ネットで反感買って炎上も

もちろん誰もが成功するわけではない。目標額に達せずに終了してしまったキャンペーンも数多く存在する。

インド版ローリングストーン誌は成功の条件について、身の丈に合った目標額を設定することが必要だと主張する。

「成功の確率は目標額にもよる。知名度が低い上に、企業や他の有名アーティストの支援もないバンドならば、まずは小さい額から始めるべきだ」。

またソニーミュージック・インディアのジャエシュ・ヴェラルカルは、手厳しくこう指摘している。

「質の高いアーティストだけが、クラウドファンディングを成功させることができる。そのアーティストに関わりたいと思ってくれる強固なファンをどれだけ開拓できるかに尽きるだろう。身内しか買ってくれないような作品では、支援は得られない」。

それでは知名度も実力もあるアーティストであれば心配ないかといえば、そうでもない。

モニカ・ドグラは、人気エレクトロポップデュオShaa’ir+Funcのボーカルとして活動するだけでなく、2010年にトロント映画祭に出品されたインド映画「Dhobi Ghat」に主演するなど、才能豊かな女性アーティスト。

彼女は2015年6月、ミュージックビデオの制作費用を集めるためにクラウドファンディングを利用した。

しかしこのキャンペーンがきっかけで、ソーシャルメディアを中心に炎上する事態となってしまう。

同性愛者への支援を呼びかけることが目的だとするこの取り組みは、目標額が500万ルピー(約900万円)と高額だったこともあいまって、「社会支援を理由に大金を搾取しようとしている」などといった批判が殺到してしまったのだ。

動画で支援を訴えるモニカ・ドグラ

動画で支援を訴えるモニカ・ドグラ

彼女を批判したある女性編集者は、ニュースメディアに寄稿した記事「モニカ・ドグラがネット上でお金を要求して笑い者になった件について」の中でこう述べている。

「どうしてミュージックビデオを作るのに500万ルピーもかかるのか?支援者への特典として、ドグラと買い物する権利というのがあるが、それが同性愛者の人権と何の関係があるのか?」

この記事はFacebookでのシェア数が約6,000回に上ったほか、他のメディアでも取り上げられるなど、大きな反響を呼んだ。

熱狂的なファンが多いアーティストによる失敗例なだけに、ネット上でお金を募るというデリケートな行為の難しさが改めて浮き彫りになった形だ。

■問題は山積み、今後に期待

このようにクラウドファンディングは扱いが簡単ではない上に、インターネットやクレジットカードの普及率が低いといったインフラ面の問題も山積している。

それでもこの手法がインドのアーティストたちの大きな期待を背負っていることに変わりはない。

デリーを拠点とする人気オルタナロックバンドSkyharborは、2014年にリリースしたセカンドアルバムの制作費をクラウドファンディングで調達した。ギタリストのケシャヴ・ダールはこう話す。

「クラウドファンディングは未来を切り開いてくれる手段だ。ファンに強い力を与える形でね」。

Indian Music Catalogの公式Facebookはこちら

※参照記事
Indie music scene in India growing, thanks to crowdfunding
For The People, By The People
Why crowdfunding is a hit with India’s independent filmmakers
Crowdfunding India: 10 Indian Online Crowdfunding Platforms
Meet Wishberry, a made for India Kickstarter-like crowdfunding platform
Wishberry: Making India the Next “It” Place for Creative Projects
Crowdfunding: The next big thing
12 Indian Music Initiatives That Showed Us How Incredible The Results Of Crowdfunding Can Be
How Monica Dogra asked for money on the net and became a joke
ON MONICA DOGRA & THE LINES THAT SEPARATE CRITIQUE AND PROVOCATION