インド南部で巻き起こるポストロックブームを追う
インド版Rolling Stone誌にて、ポストロック特集が組まれていました。
なんでも南部のベンガルールを中心にこのジャンルが盛り上がっているのだとか。
記事では、ベンガルールの現地シーンにどんなバンドがいて、インド人である彼らがどんなきっかけや考えでバンドを始めたのか、なんてことが書かれていたので、曲も交えつつ紹介していきたいと思います。
自分としては、実際にインド人バンドの曲をいくつか聴いてみて、改めてこのジャンルの良さを実感するくらい良い曲が多いと思いました。
なによりもボリウッド音楽みたいに、エンタメ性が強い曲が多いインドの中で、この種のジャンルが局所的とはいえ人気を集めているというのはおもしろいなと思います。
■そもそも「ポストロック」とは?
とはいえ「ポストロック」って漠然とした言葉なので、どんな音楽かわかりそうでわからないジャンルではある。
ざっくり思い浮かぶのは、Sigur RosとかMogwaiみたいに、ボーカルがない、もしくは少なくて、かつエレクトロニカに近い雰囲気のような音楽でしょうか?
Wikipediaによると、「ポストロック」とは1990年代のはじめに批評家の中で使われだした言葉。「ロックの楽器をロックとは違う目的に使用」する音楽とある。たとえばギターを弾くにしても、リフやパワーコードのためではなく、音色や響きをつくるために使うような場合がこれにあたるそう。
確かに一般的に「ポストロック」として紹介される音楽の特徴の一つではあるのかなという気はします。
まあ、あまりこの手の話を深堀し始めるときりがないし、音楽に詳しい方に突っ込まれることにもなるので、雰囲気としてはわかった、というレベルで次に行くことにしましょうか。
■インドポストロックの始まり
ベンガルールでポストロックバンドが登場し始めた時期は約10年前の2005年前後。当時もベンガルールはポストロックの中心地とされ、多くのバンドが活動していたそう。
この時期に登場したバンドの中で代表的な存在が、2005年に結成したLounge Piranha。ヘビーメタル全盛だった当時のベンガルールにおいて、アンビエント風のポストロックを持ち込んだ。
音響やビジュアルエフェクトをコントロールしやすい小さい会場での演奏にこだわるスタイルが話題となり、若い音楽ファンを中心に徐々にクチコミで評判が広がることになった。
さらに2006年3月にラジオ局Radio Cityが主催した投票で、「ベンガルールのトップバンド3組」の中に選ばれたことに加えて、オーストラリア出身で地元でのミリオンセラーも記録している人気ロックバンドTaxirideの前座を務めたことによって、一気に知名度を上げることになった。
短命に終わる当時のポストロックバンドの中で、彼らはメンバーチェンジを経て2011年ごろまで活躍。2008年にデビューアルバム”Going Nowhere”をリリースした際には、国内6都市でライブツアーを実施した。ポストロックというマイナーなジャンルながら、インド全土でファンを獲得し、カルト的な人気を博した稀有なバンドといえる。
Lounge PiranhaのギタリストKamal Singhによると、彼が「ポストロック」というジャンルを知ったきっかけは、ネットラジオでSigur RosやExplosions In The Skyの音楽に触れたことだそう。
ベンガルールでのLounge Piranhaのライブ。2006年ごろ(録音は良いとはいえないけど、当時のライブでのバイブスが伝わってきます)。
デビューアルバム”Going Nowhere”の収録曲”Ebb”(良い曲ではあるけど、これはさすがにポストロックじゃないのでは。。。でも好きです)
彼らの活躍によって、その後のベンガルールで多くのフォロワーバンドが生まれることに。
■2010年代のインドポストロック
ベンガルール出身で2015年現在のインドのポストロックシーンの最前線を走るバンドの一つ、Until We Lastの主要メンバーKetan Bahiratは、初めてLounge Piranhaに触れたときについてこう語る。
「初めてLounge Pirahaのライブに行ったのは16歳の時。父親に連れられて行ったんだ。彼らは他のバンドとは明らかに違っていた」。
ただ初めて聴いたインドポストロックは、ムンバイ拠点の5人組バンドThe Eternal Twilightだという。ムンバイ出身のNoorとパキスタン北部のラーワルピンディー出身のAbbasが2011年に結成したグループ。現在はさらにドイツとアメリカ出身のメンバー2人も含む国際色豊かなバンド。
“The Eternal Twilight”のデビューアルバム”Everything Resembles You”
こういったバンドに影響されたKetanは、2011年に宅録で楽曲を作り始める。ただすぐに一人での楽曲制作に飽き足らなくなった彼は、2、3ヶ月後にはバンドメンバーを募ってUntil We Lastを結成。
そして結成から3年たった2014年8月にリリースしたデビューEP「Earthgazing」によって、インドオルタナシーンで大きな人気を獲得することになる。
インド主要紙のThe Hinduは、Until We Lastについて次のように触れている。
「バンガロールはポストロックが盛んな都市だということは広く知られた事実だ。Lounge Pirahaなき今、誰がこの街のポストロックを担うのか?それは間違いなくUntil We Lastだ」。
Until We Lastの代表曲”Creation”
・Bandcamp (Until We Last)
・Soundcloud (Until We Last)
・Facebook (Until We Last)
現在はベンガルール以外の都市出身のポストロックバンドも増えているが、Lounge PiranhaとUntil We Lastの影響を公言するアーティストは多い。
西部グジャラート州アーメダバード出身のポストロックバンドAs We Keep SearchingのフロントマンUddipan Sarmahは、2006年にベンガルールに移住。その際にLounge Piranhaを聴いたことをきっかけにポストロックの演奏を始めたという。
さらに影響を受けたアーティストとしてUntil We Lastを挙げている。
「ポストロックは単なるインスト曲じゃない。エナジーとバイブを伴うものなんだ」(Uddipan)。
彼らの楽曲はインド国外のポストロック専門サイトなどで紹介されることもある。一番大きな理由は、彼らのヒンディー語のボーカルによるポストロックが物珍しいからということがある。
彼ら自身、ヒンディー語の歌詞を除けば他のポストロックバンドと比べた特徴は薄いと認めているという。
「ただヒンディーロックバンドとまでは呼ばれたことはない。そこは自信に感じている」(Uddipan)。
As We Keep SearchingのデビューEP “Growing Suspicions” (2014)
・Bandcamp (As We Keep Searching)
・Soundcloud (As We Keep Searching)
・Facebook (As We Keep Searching)
■インドにおけるポストロックとは
なぜ今のインドでポストロックのバンドが増えているのか?
確かなことは分からないけれども、ベンガルールで活動するあるポストロックのメンバーは次のように話す。
「たぶんミュージシャンたちは大衆的なメインストリームの音から離れて、何か面白いことをやりたがっている。その結果このジャンルに行き着いているんじゃないかな」。
先に紹介したUntil We LastのBahiratは、インドのポストロックバンドは海外のアーティストと比べてもユニークだと話す。たとえば2012年にデビューしたベンガルール出身の4人組ポストロックバンドSpace Behind The Yellow Room(SBTYR)のボーカルShoumik Biswasによる雄叫びのようなボーカル、As We Keep Searchingのようなヒンディー語による楽曲など。
特にSBTYRは2015年5月にシンガポールの音楽フェスで演奏したことで、海外で演奏した初めてのインド人ポストロックバンドとなった。
SBTYRのボーカルを務めるBiswasは、ポストロックにこう述べている。
「僕にとって、ポストロックとはポストモダニズムと同義だ。これまで常識とされてきた構造を打ち壊す行為を指すんだ」。
Space Behind The Yellow Roomによるベンガルールでのライブ。
彼らのデビューアルバム”Conversations That Determine A Life”
・Soundcloud (Space Behind The Yellow Room)
・Facebook (Space Behind The Yellow Room)
Indian Music Catalogの公式Facebookはこちら
※参照情報
・Post-Rock In The Present
・The Neo-human Motif of Post Rock in India
・Bengaluru Post-Rock Comes To Mumbai
・Lounge Piranha
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