インドにもロックはある、インフォグラフィックでその歴史を辿ってみた(中編)
インフォグラフィックを使って、インドのロックの歴史を辿る記事の第2弾。80年代までを追った前編に続いて、今回は90年代編です。
その前に軽く前回までのおさらいを。
世界を席巻したビートルズ人気をきっかけとして、インドにも1960年代前半にロックが伝わってきます。欧米のバンドに触発される形で、数多くのインド人バンドがムンバイやコルカタ、ベンガルール、デリーといった大都市を中心に、同時多発的に登場。富裕層を中心とした若いファンたちは、マッシュルームカットにベルボトムといった欧米風のファッションで、夜な夜なライブに繰り出していたといいます。
当時のバンドが演奏した曲はといえば、ビートルズやローリングストーンズ、ベンチャーズといった欧米の人気バンドのカバー曲が中心。自身のオリジナル曲を歌うことはあまりなかったそう。
ロックがインドに上陸してからしばらくの間は、人気が伸び悩む状態が続いたものの、1980年代半ばを過ぎるころには、実力のあるバンドが登場し始めたことで、徐々にシーンが形成されるようになってきます。1988年には、当時のインドで最も人気だったバンド、Indus Creedがインド人バンドとして初めて全曲オリジナル曲のアルバムをリリース。
このシーン拡大の動きは、90年代に入ってさらに加速することになります。それをわかりやすく表しているのがこのインフォグラフィック。前編で紹介したように、1970年代〜2000年代までのインド人バンドを時系列で並べたものです。80年代にデビューしたインド人バンドの数(青枠内)はごくわずかだったものの、90年代(赤枠内)に入ると格段に増えているのがわかります。
なぜこの時期にシーンが一気に拡大したのか?当時のシーンではどんなバンドが活躍していたのか?こんな疑問に答えながら、90年代のインドロックシーンを追っていきたいと思います。
■ロックバンドの露出が飛躍的に増加
90年代に入ってバンドの数が飛躍的に増えた背景には、楽曲を露出する場が増えたことがあります。
それまでのインドでは、CDの販売が期待できない上に、演奏する場所や露出するメディアも少ない、ましてや今のようにSNSもなかったため、作った曲をファンに届けることは至難の業。
ただ90年代に入ると大学でのカレッジフェスをはじめ、バンドが演奏できる場が徐々に増え始めてきます。さらに93年にはインド初のロック雑誌となるRock Street Journalが創刊。そして96年にはMTVがインドに上陸するなど、バンドとファンをつなぐインフラが整い始めてきます。
これらの要因を一つ一つ追っていきましょう。
■カレッジフェスはバンドにとって貴重な演奏場所
カレッジフェスとは、インド各地の大学で開かれるロックフェス。80年代後半から増え始めたカレッジフェスでは、勝ち抜き戦という形で各バンドが演奏していきます。現在でも国内各地で盛んに開かれており、最大規模となるIITカンプール校の”Synchronicity”では、出演バンド数が約400組に上るといいます。
90年代のロックバンドにとって、カレッジフェスは若いファンたちを開拓できる数少ない場所。それと同時に学生にとってもロックのライブを楽しめる貴重な機会でした。ここでお気に入りのバンドを見つけた大学生が、卒業後もそのバンドのファンであり続けることもよくあったそう。
ムンバイを拠点とするロックバンドThe Family CheeseのボーカルYohan Marshallは「一つの都市でバンドの認知を広めたいのなら、カレッジフェスで演奏するのが一番だね」と話す。またデリーのフュージョンバンド、Indian OceanのドラマーAmit Kilamによると、「カレッジフェスというのは、長らくインドのバンドにとって唯一の演奏機会だった」という。
90年代のカレッジフェスで活躍したバンドの筆頭が、デリー出身の6人組バンドParikrama。91年に初めてカレッジフェスに出演して以来、インド全土の大学での演奏を果たしており、カレッジフェスの話題になると必ずといって良いほど触れられるバンド。インフォグラフィックでいうとココ。
バンドのメンバーのSubir Malikは、カレッジフェスについて次のように話す。
「今でもカレッジフェスで演奏すると、とても若々しい気分になれるんだ。学生たちの熱気は、ほかの場所でのコンサートではあり得ないくらい高い」。
Parikramaが91年に初めてカレッジフェスで演奏した時の貴重な音源が残っていました。IITカンプール校で開かれた”Synchronicity”で、初のオリジナル曲”Xerox”を歌ったときのもの。
ちなみに彼らが96年にリリースしたシングル”But It Rained”は、Rolling Stone誌が2014年に発表した「過去25年間で最も偉大なインドのロックソング25曲」に選ばれています。
96年にリリースされた“But It Rained”
また同じ時期にデビューし、数多くのカレッジフェスにも出演したバンドが、デリー出身のIndian Ocean。ロックとインドの伝統音楽を合わせたフュージョンロックの先駆けとして知られるグループ。
1980年代前半にタブラ奏者のAsheem Chakravartyと、ギタリストのSusmit Senが出会ったことがきっかけで結成。しばらくは自分たちの音楽を模索する時期が続いたものの、1990年になってようやく最初の音源のレコーディングに取り掛かります。
レコーディング費用捻出のために手持ちのギターを売却するなど、金銭的に厳しい状況だったものの無事完成。計45分におよぶ7曲を1日で全て録音するという荒技で作ったデモテープだったにもかかわらず、HMVの担当者の目に止まったことでアルバムとしてのリリースが決定。
デビューアルバム”Indian Ocean”に収録の”Out of the Blues”
97年にリリースのセカンドアルバム”Desert Rain”
彼らはこれまでに計7枚のアルバムをリリース。インドのロックの歴史を代表するバンドとして、現在でも一線で活躍しています(メンバーの病死や脱退などによって、結成時にいた人間はもはや誰も残っていませんが)。
■音楽雑誌やメディアが相次いで登場
90年代におけるもう一つの大きな変化は、音楽関連のテレビ番組や雑誌などが相次いで登場したこと。
93年にはインド初のロック雑誌Rock Street Journalが創刊。
また91年には香港の衛星テレビであるスターTVが、翌92年には地場のエンタメ番組Zee TVが、インドで放送を開始。インドにおけるテレビ視聴がより一般的になります。
テレビの視聴環境が整ってきたことに加え、91年の経済自由化によって中間層が増える兆しも出てきたことから、エンタメ市場としての潜在力が徐々に増してきます。
こうした状況をみて、96年にはMTVが満を持してインドに上陸。しかし当初は、英語のコピーを織り交ぜたり、露出の多い女性が登場するなどした欧米風の番組作りが受け入れられず苦戦。そこで徐々にローカル化を進めることで、インドでの支持を獲得していきます。
このテレビ時代に楽曲のPVでヒットを飛ばしたのが、デリー出身のロックバンドEuphoria。
医大生の2人が結成したグループで、ヒンディー語ロックのパイオニアとして有名。99年にリリースしたデビューアルバム”Dhoom”がヒットを記録。シングル曲の”Dhoom Pichuk Dhoom”のPVは、テレビで繰り返し流され、90年代のインドで最も人気を得たPVとなりました。
当時の非ボリウッドソングのPVの中では、目標というかベンチマークとなるような位置付けの作品だったそうです。
(個人的には正直なにがすごいんだかよく分からないですが。。。)
という感じで90年代のインドのロックシーンを紹介してきました。
他にも紹介しておかないといけない有名なバンドはいるものの、あんまり細かく書いても需要ない気がするので、この辺で。。。
次回は00年代編です。
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※参照記事
・Euphoria (Indian band)
・Indian Ocean (band)
・Indie rock in Mumbai: A decade in review
・India’s Heavy Metal Scene: From Underground to Mainstream
・Parikrama’s Subir Malik: Best Campus Gigs In India
・Why College Festivals are Still a Big Draw for Rock Bands
・The evolution of MTV India
・MTV India
・mtv’s influence in india
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