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インドのロックの歴史について語ります、と言うと「インドにロックなんてあるの?」という疑問が返ってきそうですが、インドにもロックはあります。

それもビートルズ人気をきっかけにインドにロックが伝わった1960年代から、現在まで脈々と(低空飛行で)続く歴史があるのです。

ロックといえば邦楽か洋楽という区分けが当たり前なジャンルなだけに、インドというその区分けから外れた場所でどのように発展していったのか個人的にはとても興味があります。

インドのロックの歴史を辿るには、どの年代にどんなバンドが活動していて、どれくらい人気があったのか?なんてところをまずは知りたいところですが、中々情報が少ないのがつらいところ。

情報の少なさに悩みつつも色々探していると、こんなインフォグラフィックを見つけました。1970年代から2000年代までにデビューしたインドロックのバンドを時系列にまとめた図のようです。

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見てみると、それなりに網羅的に紹介されているようなので、今回はこのインフォグラフィックを参考に80年代までのインドロックの歴史を辿っていきたいと思います。90年代以降は中編・後編で紹介します。

■インドで最初のロックバンドは?

このインフォグラフィックでは、1975年を起点として、左から時系列にバンド名が並べられています。そこでまずは気になるのが一番左端にのっているバンド。“Mohiner Ghoraguli”という名前。試しにWikipediaで調べてみると、コルカタを拠点に1976年にデビューしたグループのよう。「インドで最初のロックバンド」として紹介されています。

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で、ここがWikipediaで気をつけないといけないなと思うのですが、実際のところ彼らは「インドで最初のロックバンド」ではなさそう。Wikipediaでは引用元としてこのインフォグラフィックが参照されていますが、おそらくこの箇所を書いた人は、単にMohiner Ghoraguliがインフォグラフィックの最初に記載されていたので、インド初のロックバンドと記載したのでしょう。

インドのロックの歴史を紹介した書籍”India Psychedelic”によると、1960年代にはビートルズ人気に触発される形で、ムンバイやコルカタ、ベンガルール、デリーのような大都市を中心に数多くのバンドが結成されたといいます。

この時期に結成されたバンドの中で、有名なバンドの一つがベンガルール出身のTrojans。1960年代始めに10代の少年4人で結成されたグループで、ビートルズを真似たマッシュルームカットにジャケットというファッション。なぜ彼らが今でも比較的有名かというと、当時大きな人気を博したというだけでなく、後にプロデューサーとして数々のヒットソングを飛ばすことになるBidduが在籍していたため。

Trojansをはじめ、この時代に活躍したバンドの多くはビードルズやローリングストーンズ、ベンチャーズなどのカバー曲を演奏。ファンたちは長髪にベルボトムといった欧米風のファッションで身を固め、夜の勉強会に行くからと家を抜け出しては、ロックのライブに繰り出したといいます。

Trojansのメンバー。
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Bidduがプロデュースした女性歌手Nazia Hassanが歌う”Disco Deewane”(1981年)は、南アジアを中心に大ヒット。

ではインドで最初のバンドは誰か?という当初の疑問ですが、”India Psychedelic”によると、1960年代始めに各都市で同時多発的に多くのバンドが登場したため、もはや誰が最初といえるかは分からないとのこと。

ちなみにMohiner Ghoraguliの話に戻ると、特に注目されることなく1981年に解散してしまったようです。まだロックが一般的に視聴される環境が整っていなかったこともあるのでしょう。本格的に人気を集めるバンドが登場し、ある程度のシーンを形成するのは、80年代半ば以降になります。

Mohiner Ghoraguliの楽曲。

■インド初の全曲オリジナルアルバムが登場

1980年代に入ると、インドではディスコミュージックが大ブームに。一方ロックは影の薄いジャンルとして身をひそめる状態が続きます。

ただディスコブームが収まる80年代半ばごろになると、2010年代の現在でも大御所として活動を続けるバンドが相次いでデビュー。ロックシーンが徐々に盛り上がり始めます。

80年代後半のインドのロックシーンはどのような状態だったのか?1989年9月のNew York Timesの記事に詳しく紹介されていました。

インドでロックの人気が高まっていると伝えるこの記事によると、ロックの市場規模は89年までの10年間で10倍に拡大。ただ市場規模自体は小さく、CDが5000枚以上売れればヒットと呼べる状態だったそう。さらにインドで聴かれるロックはインド国外の洋楽がメイン。インド人が演奏するロックは質が低いとして、人気はあまりなかったようです(程度の違いはあれ、現在も同じような状況ですが)。

そういった状況を踏まえた上でインフォグラフィックに目を戻してみましょう。次に出てくるのは1984年にデビューしたというIndus Creedというバンド(デビュー当時はRock Machine)。前述のNew York Timesの記事でも、今インドで最も人気のロックバンドとして紹介されています。他のインド人ロックグループが、バンド活動のほかにホテルなどでの伝統音楽の演奏といった副業で食いつなぐ中で、フルタイムでバンド活動ができる数少ない存在だったそう。

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当時のインド人によるバンドというと、Bruce SpringsteenやStingなどといった洋楽のコピーバンドばかりでしたが、彼らもご多分に洩れず、デビュー当時はコピー曲の演奏が中心でした。

そんな彼らがインドのロック史に名前を残した理由の一つが、1988年にインドで初めて全曲オリジナル曲で構成されたアルバム”Rock’n’Roll Renegade”をリリースしたこと。このアルバムに収録された”Top of the Rock”は、インドのRolling Stone誌が選ぶ「過去25年間のグレイテストソング25曲」(2014年)に選ばれています。

という感じで80年代までのインドのロック史を駆け足で紹介してきました。

次回の中編では90年代のバンドをピックアップ。この時代になると、MTVのインド上陸などの影響によって、オルタナやハードロック、メタルなどへの細分化が進むことになります。

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※参照情報
Moheener Ghoraguli
India Psychedelic
Indian rock
India Plays Its Own Rock-and-Roll
Indus Creed

The sound of a new music