日本のアニメが好きなインド人が作ったエレクトロニカの話
インドのインディーミュージックを紹介するこのサイトを運営する中で、今年に入ってからずっと気になっていたアーティストがいた。
デリー出身の女性アーティストでTarana Marwah(タラナ・マルワ)という名前。若干20歳ちょっとだが、2015年1月にリリースしたデビューEPが好評で、ローリングストーン誌やThumpをはじめとする主要音楽メディアで、「注目の新人アーティスト」として頻繁に紹介されるようになっていた。
まず気になったのが、彼女の作品のタイトル。デビューEPのタイトル名は「Komorebi」(木漏れ日)。収録曲には「Miyazaki’s Dream」や「Kyoto Breeze」など日本語のタイトルが並ぶ。
キャッチーなメロディーでありつつ、少し内省的なニュアンスが漂うエレクトロニカ。個人的には聴いているとジブリ的な映像が頭によぎる。
さらに現地メディアによる彼女のインタビュー記事に目を通すと、影響を受けたアーティストとして、「新世紀エヴァンゲリオン」や「BLEACH」などの楽曲を手がけた鷺巣詩郎、ファイナルファンタジーシリーズの植松伸夫をはじめとするアニメ・ゲーム音楽の作曲家や、トラックメーカーのNujabesの名前が挙げられている。
どうやら日本のカルチャーにかなりの関心を持っているようだ。
インド人の彼女がここまで日本に対して興味を持っているというのは、僕にとっては少し意外だった。
アジアの中でもインドの人たちの日本への興味関心は、東南アジアの人たちに比べると低いなー、というのが現地に住んでいたときの実感だったからだ。
だからこそ聞いてみたいことはたくさんあった。
インド人のタラナ・マルワがなぜ日本のカルチャーに興味を持つようになったのか?
彼女が作る音楽がそれにどう影響されているのか?
■日本アニメの原体験は「犬夜叉」
早速Facebook経由で彼女にインタビューを依頼してみたところ、翌日には返事が来た。
「日本にリスナーがいるなんて思わなかったわ」と二つ返事で了承してくれた。
ちょうどライブで忙しい時期だったようだが、うまくメールインタビューの時間を作ってくれた。
彼女について気になっていた点の一つが、日本のアニメへの関心の高さ。だからこの辺りから質問してみた。
なんでも日本アニメの原体験は、幼い時に観たテレビアニメの「犬夜叉」だという。
「夜更かしして弟と一緒に観ていたの。 “犬夜叉”の幻想的な雰囲気が大好きだった。四魂の玉のかけらを集める旅の途中で現れるたくさんの妖怪とか、パラレルワールドとか、お転婆なかごめと上品な桔梗のキャラクターの違いとか。退屈な日常から離れて素敵な時間を味わえたわ」。
もちろん僕は犬夜叉の制作に1ミリも関わっていないけれども、日本から遠く離れた国の人がこちらの国のカルチャーに関心を寄せてくれるのは単純にうれしい。
そもそもインドで日本のアニメはどのように受け止められているのだろうか?
実はインド人の日本への関心は、ほかのアジアの国と比べて低いとはいえ、インドでも日本のアニメは一定の人気を誇る。
代表的なところでいうと、「ドラえもん」や「忍者ハットリくん」などの藤子不二雄作品。子どもたちの間での人気が高いため、数年前から企業のプロモーションにも使われ始めている。
たとえばパナソニックは、インドでのCMキャラクターとして「忍者ハットリくん」を起用している。
家電を購入するのは大人なのに、なぜ子ども向けのプロモーションを行うのか?
それは、人気アニメを通して今のうちにパナソニックブランドに親しんでもらうことで、大人になった彼らがブランドのファンになってくれることを期待できるからだ。
具体的な成果につながるまでに10年以上はかかりそうな気の長い話だが、アニメが現地で受け入れられているからこそできる施策だろう。
タラナは日本のアニメの魅力について、次のように話す。
「アニメのユニークで独特な魅力は多くの人を魅了する力を持っていると思う。観ている人を日常とは別の世界に連れていってくれる感じがいいわね。私も普段の生活でたまにうんざりすることがあるけど、アニメがあれば自分のベッドルームにいながらにして、そんな気分を忘れることができる。それだけでも十分だけど、ドタバタ劇な感じでクセになる日本的なユーモアも楽しいわ」。
彼女が好きなアニメには、「Steins;Gate」(シュタインズ・ゲート)や「東京喰種トーキョーグール」、「DEATH NOTE」など、割と最近の作品が並ぶ。ただオールタイムベストは、NARUTOのペイン編だそう。
インドにいながらにして最近の日本のアニメの情報を集めるのは難しくないのだろうか?
「どうして?ぜんぜん難しくないわ。(アニメ専門チャンネルの)アニマックスでたくさんの作品が流れていたし、インターネットが普及してからは、Gogoanime.tvやMangafox.comのようなインドのアニメファンなら絶対におさえているような専門サイトもあるのよ」。
■ジブリにインスパイアされたエレクトロニカ
そんな彼女が作る音楽には、日本のカルチャーの影響が色濃く現れている。
なんといってもデビュー作の1曲目のタイトルが「Miyazaki’s Dream」だ。この場合の “Miyazaki”とは宮崎駿のことだろうか?
「もちろん。彼の映画は息をのむほど素晴らしい。この曲では彼の潜在意識を描こうとしたの。それと(4曲目の)”Kyoto Breeze”は、”千と千尋の神隠し”にインスパイアされて作った曲なんだけど、もしハクが千尋に歌を歌ったらっていうコンセプトなの」。
また音楽面で影響を受けたとして彼女が挙げる名前の中には、鷺巣詩郎や植松伸夫、Nujabesなど、日本のアーティストの名前が並ぶ。
特に「新世紀エヴァンゲリオン」や「BLEACH」などを手がけた鷺巣詩郎の影響は大きいという。
「“BLEACH”の最初のエピソードを観たときに音楽がすごく印象的だった。彼の音楽は、ビジュアルとリズム良く調和していたわ。エッジーで記憶に残るメロディーね。楽曲ではストリングとボーカルの部分が好みなの。 “BLEACH”のサントラの中では、 “Nothing can be explained”が一番好き」。
“Nothing can be explained”
個人的な感想としては、「Komorebi」に入っている楽曲は日本人の耳に馴染みやすいように思う。
口ずさめるくらいキャッチーなメロディーでありつつ、少し内省的な雰囲気が漂うところとか。それを彼女に伝えるとこんな答えが返ってきた。
「そうね、インドの音楽にも同じような繊細さがある。そこが二つのカルチャーの好きなところよ!“Komorebi”は私自身の内面から出てきたもの。だからこのプロジェクトがこれからどうなるのか、自分でもわからない」。
■デビュー作、現地シーンでは予想以上の反響
自分の内面から出てきた音楽を素直に表した作品だからこそ、現地シーンでどのように受け止められるかは予想しづらい部分もあっただろう。
しかし結果的に“Komorebi”はリリース直後から、主要音楽メディアから大きな注目を集めることになる。タラナは「注目の新人アーティスト」として、ローリングストーン誌やThump といったメジャーなメディアで取り上げられた。
「この作品がこんなに受け入れられるとは思わなかったわ。今回の出来事で思ったのは、他人を気にして作らなくても、聴いてくれる人はどこかにいるということ。音楽をやる上で、何か本質的な経験をした気がする」。
最後にインタビューの締めとして、「日本に旅行するとしたら何がしたい?」と聞いてみた。
「それは夢にまでみた究極の旅行ね(ここぜんぶ大文字で強調)。ストリートで売ってる食べ物を食べ尽くしたいし、腕が落ちるまでショッピングしたいし、綺麗でちょっと変わったホテルにも泊まってみたい。あと山がある景色がすごく好きだから、トレッキングもやりたいわね」。
■Tarana Marwah
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