Japan%20tour%202015%20artwork

インドの音楽シーンの中で、新作リリースが音楽メディアだけでなく一般紙にも取り上げられるほど人気が高いアーティストは限られる。

さらにインド国外(主にイギリス)の大手メディアでも紹介されるレベルとなると数えるほどだ。インディーシーンで絶大な人気を誇るデリーのスカバンド、The Ska Vengersは明らかにそのうちの一つ。

彼らの人気ぶりを目の当たりにしたことがある。デリーの主要なクラブの一つ、blueFROGで音楽フェスが開かれたときのこと。昼間から深夜にかけてインディーアーティストたちが出演するこのイベントの大トリがThe Ska Vengersだった。

彼らの出番は23時半ごろからの予定だったけれども、前のアーティストたちの演奏が押していたため、1時間が過ぎても始まらなかった。一緒にいた友人たちは待ちきれず先に帰ってしまった。

そして深夜1時ごろになってようやく彼らがステージに現れると、会場の空気が一変した。それまで酒を飲みながら横目で演奏を眺めていたような客たちまでもが、一斉にステージ前に詰めかけた。少し停滞気味だったそれまでの雰囲気を打ち壊すような勢いのあるステージングと、客たちの熱気が忘れられない。

そんなThe Ska Vengersのボーカル2人が、11月28日(土)に大阪で来日公演を実施することになりました!イベントの詳細はこの記事の一番下にも記載。貴重な機会ですので、お近くの方はぜひご参加ください。

Facebookイベントページ

The Ska Vengersのライブ動画。

今回来日するのは男性ボーカルのDelhi Sultanate(デリー・サルタネ)と、女性ボーカルのBegum X(ビーガム・エックス)。レゲエやスカが広く浸透しているとはいえないインドの出身ながら、国内外で活躍する彼らがどんなアーティストなのか、以前から興味があった。今回は来日にあたって2人にインタビューする機会をいただいたので、現在のインドのシーンの状況や音楽に対する想い、国内の政治に至るまで幅広く話を聞いた。

――初めてレゲエに触れたときのことを教えてください。

Delhi Sultanate(DS):幼い頃はドイツに住んでいた。母親がそこで教師をしていたからね。“Big Things a Gwaan”っていうレゲエの集団がいたんだけど、14歳の時に初めて彼らのダンスパーティーに行った時に圧倒されたんだ。ほかにも週一で海賊ラジオで放送されるレゲエの番組を聴いたりもしてた。インターネットなんてない時代だから、毎週の放送にかじりついて聴いて、テープに録音してたよ。そのうちジャマイカからレコードを輸入しているドイツでも数少ないレコードショップに通って、作品を注文するようになった。そこで初めて買ったレコードが“Yami Bolo”の“Trample”と、King Tubbyの“King Tubby’s Classics”。この2枚は今でも演奏する。

(Bass Foundation RootsによるYami Boroのダブプレート)。

90年代のダブミュージックとダンスホールが本当に好きだった。Sizzlaがブレイクする2年前のことだった。仲間と一緒に地元のユースクラブでサウンドシステムを組んで、ラバダブ(リディムと呼ばれるレゲエのリズム体に対してDJやシンガーが即興で歌詞をつけて歌うスタイル)をやったりしてた。1999年にインドに帰国してからは、そこでレゲエを広める方法はないかずっと考えてた。そのうち物事が段々うまくいき始めて、(2009年に)The Ska Vengersを始めたんだ。

Begum X(BX):わたしがレゲエアーティストとして活動を始めたのは本当に最近で、2009年にThe Ska Vengersのリードボーカルになってからなの。それまではミュージシャンや歌手になることすら想像してなかった。ヨガ・セラピストの資格を持っていたし、テレビ番組の司会や俳優の仕事がとても忙しかったから。歌手としての経験は全然なかった。でも2009年を境にレゲエやスカ、ロックステディに没頭するようになったの。今でもヨガの教師は続けているけどね。それからあらゆる曲を聴き尽くしたというわけではないけど、The Ska Vengersとしてステージに立つことで、歌手やパフォーマーとして成長してこれたと思う。それと同時にインドの政治や生活への関心も高まってきた。たぶんこれはレゲエやスカに熱中するようになって、このジャンルの背景にある歴史を理解しようとしたことも関係していると思う。

――今回はThe Ska Vengersとしてではなく、2人組ユニットの”Delhi Sultanate & Begum X”として来日します。ほかにもDelhi Sultanateは”Bass Foundation Roots”としてソロ活動もしていますが、どういった形で使い分けているのでしょう?

BX:The Ska Vengersはライブバンドで、サウンドシステムやDJとしてのショーとは全く違うものなの。過去5年間で、インドの人たちがわたしたちの音楽に共感してくれるようになってきた。このバンドが言語や年代、社会的地位を超えて支持されるようになってきた。バンドとしてインド各地でフェスに出演しているし、文芸フェスやフォークフェス、アートフェス、さらにはインド最大の刑務所でのライブのようにサウンドシステムとしての出演が難しいイベントもある。ぜひバンドとして日本とジャマイカには行きたいわ。

(ニューデリーにあるTihar Jailでのライブ。刑務所でのライブということで話題になり、BBCやThe Guardianをはじめ国外のメディアにも取り上げられた。)

“Delhi Sultanate & Begum X”は、もともとバンドメンバー全員を連れていけない会場でのライブのために作ったの。でも今はこのユニット自体の活動も始めていて、プロデューサーや他のミュージシャンたちとのコラボもしたりしてる。たとえば去年にはアフガニスタンを訪問して、現地の伝統音楽のミュージシャンたちとセッションしたの。彼らはレゲエを聴いたのは初めてだそうだけど、本当に素晴らしいセッションだった。その時に“Divide and Rule”と”Sun is Shining”の2曲をレコーディングしたの。今はミキシングが進んでいるところ。

(アフガニスタンでレコーディングされた曲 “Divide and Rule”。)

DX:DJとシンガーとは別に、”Bass Foundation Roots”(BFR)名義はサウンドシステムとしての名前なんだ。ダブ・プレート(サウンドシステム向けとして、既存の曲を元に制作したオリジナルのアセテート盤)をカットして、月に一回デリーでプレイしたり、ウィークリーラジオのDubforceRadioでかけたりしている。今後はインドの都会から離れた地域を中心にツアーをしたい。サウンドシステムがあることで、自分が好きな曲を現地でかけることができるんだ。それとWord Sound Powerというレーベルも運営している。インド全土を移動式のスタジオやカメラと一緒にまわって、現地の革新的なシンガーたちとコラボしている。こういったプロジェクトが、レゲエミュージックだったり植民地主義への抵抗につながるんだ。

――あなた(Delhi Sultanate)は別のインタビューで、Bass Foundation Roots名義での活動は、現在のダンスミュージックのブームに対抗する意味合いもあると語っていました。今のインドで巻き起こっているムーブメントの問題点はなんだと考えますか?

DS:インドで起こってるダンスムーブメントの全てを否定しているわけではないんだ。面白いことをしている人たちもたくさんいる。だけど世界的な傾向として、Skrillexのダブステップのように騒がしくてポップなベースラインに偏っていると感じる。彼らはサブベースからミッドレンジベースへと移行しつつ、レゲエも取り込んでいるけど、何か底の浅い音になってしまっている。

インドでいうとさらに会場の問題が深刻だね。会場のオーナーたちはカルチャーには全く通じていなくて、単にバーの売り上げや金払いの良い客たちのことしか考えていない。だからまがいものの音楽ばかりがかけられることになる。そもそも演奏のためのスペースが足りないし、ソウルフルな深い音楽を演奏させてくれる会場も少ない。Trojan Sound System(イギリスのレゲエクルー)のEarl Gatesheadがこんなことを言ってたよ。「観客を盛り上げることは簡単だけど、彼らのスピリットに触れることは難しい」。僕が子どもの時に通っていたセッションのように、人々が一体になって心地よいフィーリングが生まれるようにしていきたい。それが今僕がレコーディングしたり自分のサウンドシステムを作り上げたりするモチベーションになっているんだ。以前はよりルーツに近いレゲエを演奏することにためらいがあって、単に観客を盛り上げることに徹した時期もあった。けれども最近では人々がソウルフルなヴァイブスも楽しんでくれることが分かってきたよ。

――インドでの音楽のマネタイズはとても難しいと思います。自身の作品をどのようにプロモーションしていますか?

DS:インドに限ってということ?多くの人はもはや音楽を売ろうなんて考えていないよ。一部の先進的なアーティストたちはただで作品を配って、ライブで儲けているんだ。僕らはアルバムを売るし、いくつかのトラックを商業レーベルから出してもいるけど、大きなお金になっているわけじゃない。プロモーションとしては、取材を多く受けることにしているし、ツアーもたくさんまわる。ポスターやフライヤー、ステッカー、ステンシルといったゲリラ的なマーケティイングもする。それにやっぱり口コミは大きい。もし人々がショーを楽しんでくれれば、彼らはまた戻ってきてくれるし、周囲に広めてもくれるだろう。

――レゲエやスカというジャンルは元々とても政治的な色合いが強いジャンルです。その点でいうと、去年The Ska Vengersとしてリリースした “Modi A Message to You”と、今年にリリースした “Frank Brazil”の共通点が興味深かったです。2つとも、一般市民への暴力に加担した政治権力者たちを批判する内容になっています。こういった作品を作った意図を教えてください。

※注:“Modi A Message to You”は、英国のスカバンドThe Specialsによる曲のカバー。2002年にグジャラート州で700人以上の死者を出した暴動について、当時州首相だったにもかかわらず適切に阻止しなかったとされるモディを批判した内容。この件でモディは、2005年から首相に就任する2014年まで、米国の入国ビザを停止されている。

※注:“Frank Brazil”は、1919年にパンジャブ州でイギリス軍が一般市民を銃撃した事件を取り上げた曲。当時のイギリス人州知事は、この虐殺を正当な行為として支持していた。

DS:欧米の植民地にされた他の国々のように、現在のインドは危機的な状況にあると思う。インドの政府は国内外の企業のいいなりだ。今まさに植民地時代と同じようなことが起きている。インドの天然資源や安い労働人口が搾取されている。インドの一部の最貧困層は武器を手に政府に対して立ち上がっているところだ。レゲエは現実社会に関する音楽だからこそ、こういった問題に触れずにはいられないんだ。もっと人々の目に触れるように働きかける必要があるし、アフリカやカリブ諸島、南アメリカといった他の植民地での同種のムーブメントとのつながりも強めなくてはならない。もちろんこれは音楽の範疇を超える話かもしれないが、音楽とカルチャーは重要な役割を果たせるはずだ。“Modi A Message to You”は(2014年5月の)選挙の前に作った曲なんだ。今のインドのトップにいるのはファシスト政権だよ。マイノリティーの人たちは抑圧されているし、いわゆる経済発展が強烈に推し進められている。そんな中で抵抗運動は存続の危機に瀕している。

――最後に日本への印象を教えてください。

DS:日本に行くのが本当に楽しみだよ。おそらく子どもの頃に黒澤明の映画を観たのが日本について最初の印象かな。7歳のときに「七人の侍」を数え切れないくらい観て、セリフも全部覚えてしまったんだ。それと日本のマーシャルアーツの剣術を何年も習っていた。

BX:日本は他のアジアの国々のように、とてもユニークな歴史を持っているね。日本が欧米の列強からの植民地化を防いだということがすごいと思う。それと仏教の教えにも興味がある。

DS:デヴィッド・カッツ(「レゲエ博士」の異名で知られるイギリスの研究家)が僕に言ってたんだけど、レゲエという音楽について、日本はジャマイカに次いで真摯に向き合っている国だ。1999年に(横浜のレゲエサウンド)Mighty Crownが「World Clash」で優勝したときのことを覚えているけど、日本からそんなサウンドが出てくるなんて、信じられなかった。

BX:会う人がみんな、日本にはとてもかっこいいレゲエバンドやサウンドシステムが多くて、クレイジーなダブ・プレートがある国だっていうの。日本に行くのが本当に楽しみ。

■イベント詳細
フライヤー表

フライヤー裏

2015年11月28日(土)
Spice of Life vol.3 -valitudo –
@Socore Factory(南堀江)

【Dancehall/Reggae】
■DELHI SULTANATE & BEGUM X
(The SKA Vengers) from India
with Chalisss Crew

【Dancehall/Reggae】
■NG Head with YAHMAN BAND

【Ska/Punk/Hardcore】
■BEAST

【Rare Groove/Funk】
■Kemuri Dub Collective

【Trip music】
■Sualiminal Acid

【Host MC】
■PamPam from Casino 891

【Selector】
■Mr. Pepper from 釈迦力

Open 18:00 / Close 02:00
AVD:2000円 (D別)
Door:2500円 (D別)

@Socore Factory
大阪市西区南堀江2-13-26
TEL: 06-6567-9852

***前売り取扱店*********************
Socore Factory(大阪市西区南堀江2-13-26)
Nite Klub Rudy(大阪府池田市石橋2-4-1 ANEXビル2-B1)
Jerk Man(大阪府大阪市東成区中本1-10-23)
Whatever(東大阪市足代新町9-11)
Longchamp(兵庫県川西市緑台2-1-79)
******************************

企画:釈迦力
お問い合わせ: mr.pepper0402アットgmail.com
※「アット」を@に変えてください。