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南アジアの音楽シーンを紹介するメディア「Border Movement」にて、インドの音楽事情に関する記事があったので、翻訳させていただきました。

オリジナル記事:THE FORK IN THE ROAD: REALITIES OF BECOMING A PROFESSIONAL MUSICIAN IN INDIA

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人生のある時点において、難しい選択をせまられることがある。

今のインドの仕事環境を取り巻く変化は大きい。新しい道が拓けていく一方で、古い道はいつの間にかその魅力を失っていく。

私たちの多くは、将来役に立つかも分からない学位のために、ブラブラと学校に通っている。鉱山技師として働きDJもする一方で、このような記事を書いている私はその最たる例だろう!

実際に決断に迫られて身を投じるまでは、何が自分の得意分野か分からないことが多い。一歩踏み出すことで失敗するリスクを恐れて、何もできない。これがクリエイティブな発想を妨げる要因だ。

仮に一歩踏み出せたとしても、「自分は成功できるだろうか?」「失敗したらどうしよう?」といった答えのない疑問にさいなまれる。

このような疑問は、大学を卒業したばかりの若者や、発展のない仕事に就いている人たちだけのものではない。音楽業界にも当てはまるだろう。

成長と革新を迎えているインドの音楽業界において、プロのミュージシャンやサウンドエンジニアを目指すことは悪い考えではない。

業界の盛り上がりによって、国内各地で音楽学校やスタジオがきのこのように増え続けている。

このような学校の多くは、素晴らしい機材を備えているだけでなく、経験豊かなスタッフ、グローバルな水準に沿った質の高い授業をそろえている。

中でもAshwinとAshrith Baburaoの2人が創立したBeatworx Studiosは、その代表例。過去数年の間にバンガロールで、優れた才能を輩出してきた。

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「バンガロールは多様性のある場所だ。この学校では、夢中になれるものを探してアートに関心を持ち始めたという50歳の人から、15歳の若い生徒までいる。待遇の良い仕事をやめて、自分の時間のすべてを音楽にささげるような人も、ここでは珍しくないんだ」とAshwinは語る。

音楽業界でプロを目指す人たちに向けて、バンガロールのBeatworxやThe Music’scoolのような機関は様々なコースを提供している。

「The Music’scoolは、DJやVJ、RJ、エレクトロニックミュージックの制作、オーディオエンジニアリングといった多様なコースを展開している。生徒は業界を代表する経験豊かなDJやプロデューサー、サウンドエンジニアと接することができるんだ」と同校のスタッフ、Sam Abrahamは話す。

クリエイティブ面でのルネッサンスを迎えている現在のインドには、才能あふれるアーティストが登場している。特にMidival PunditzやArjun Vagale、Ricky Kejなどは、世界へのインド音楽の発信に貢献してきた。

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インドのエレクトロニックミュージックを代表するMidival PunditzのメンバーであるTapan Rajは、音楽業界に飛び込む前に、よく計画を練ることが重要だと強調する。

「今は音楽の道に進むには良いタイミングだと思う。新人アーティストにとってのチャンスも多い。ただオリジナリティーやユニークであることが、突出するための唯一の条件であることは変わらない」。

一方でインド工科大学(IIT)の卒業生でもあるTapanは、Snap Lionというアプリ開発企業の経営もしている。ミュージシャンをやっていても、同時に他の道も追求できるという好例だ。

今の音楽業界のように未開拓の分野を進むにはお金がかかる。才能のあるミュージシャンの可能性を摘むことになっている、と批判する人もいる。

しかしそれは多かれ少なかれどのような業界でも同じだ。Tapanは、「好きな道を追求できるように、できることはやるべきだ。僕は大学生の時、キャンパスの隣にあるスタジオでソフトウェアエンジニアとして働きづめだった。そうやってキャリアを築いてきたんだ」。

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ただミュージシャンのサポート体制は充実してきている。国内産のエージェンシーやレーベルが増えているのだ。

中でも代表的なエージェンシーである、MixtapeやUnMute、OML、ModeM、Regenerate、Qilla、KRUNK、Vital、Submerge、ReProduce、MGMH、ENNUI Bombなどは、インド国内の才能を発掘し、様々な場所でパフォーマンスする機会を彼らに提供している。

たとえばVishnu PSとNikhil Kaulが立ち上げたレーベルLowlitや、バンガロールにあるConsolidateJuiceboxは、国内のコンテンポラリーミュージックのアーティストの発掘に注力している。

「アーティストを見つけて、彼らにパフォーマンスの機会を与えて、オーディエンスに紹介する。責任は重大だね。唯一の目的は、Lowlitらしい音楽を提示すること。そうすれば他のこともついてくる」とVishunuは明快に語る。

ただ今のインドでレコードレーベルを経営するメリットは多くはない。

「利益はもちろん重要。ただシーンを発展させることで得られる満足感があれば十分だ」(Vishunu)。

スタジオや音楽学校、レコードレーベル、アーティストといった関係者皆の努力が、シーンを切り開く原動力になるだろう。現在歯を食いしばりながら我慢している人々が待ち望む光景はその先にある。

他の業界と同様に、音楽業界での成功を保証するものは何もない。ただ達成した時の見返りは大きい。