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パキスタンに住むアーティストたちにとって、1977年からの10数年間は悪夢のような時代だった。

クーデーターによって誕生したイスラム主義的な軍事政権が、音楽をはじめとする文化活動を弾圧したのだ。

パキスタン北部にある芸術の都ラホールの道端では、イスラム過激派がミュージシャンを意味もなく殴りつけたり、楽器を破壊したりする光景が日常的に繰り広げられた。公共の場で演奏しただけで殺されてしまったミュージシャンも少なくない。

しかしそんなラホールですら、パキスタンの他の地域と比べればまだ安全なほうだった。「音楽は罪だ」と主張するイスラム主義組織タリバンが、国内の至るところで勢力を拡大していたのだ。

パキスタンに数多くいた才能豊かな伝統音楽家たちは、生き延びるために活動を断念。彼らの多くは小売店やリキシャの運転手などで生計を立てることにした。

こうして伝統音楽の分野で名を馳せていたミュージシャンたちの存在は、いつしか世間から忘れ去られてしまった。

■ジャズのカバー曲が話題に

しかし1980年代後半に入ると、欧米で教育を受けた女性政治家ベーナズィール・ブットーが政権を獲得。それによって文化活動への締め付けも徐々にゆるまっていった。

そしてさらにしばらく経ち、伝統音楽のミュージシャンたちによる復活劇も始まった。

イギリスで成功したラホール出身の実業家イッザト・マジードは、2004年に私財を投じて音楽スタジオを建設。国のイスラム化で職を失った音楽家たちを探し出してオーケストラ「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」を結成した。

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一度は世間から忘れ去られた音楽家たちが、再び自分たちの聴衆を取り戻すために使ったもの。それは異国の地アメリカのジャズとYouTubeだった。

サッチャル・ジャズ・アンサンブルは、1950年代にリリースされたジャズの名曲「テイク・ファイブ」を伝統楽器によってカバー。2011年4月にミュージックビデオをYouTubeでアップした。

動画は瞬く間に100万回を越えるアクセスを記録。さらに原曲を作曲したデイヴ・ブルーベック自身の目にも止まり、「今まで聴いた中で最も面白く、類を見ない『テイク・ファイブ』の録音だ」といわしめた。

サッチャル・ジャズ・アンサンブル「テイク・ファイブ」

現在バンドの指揮者を務めるニジャート・アリはこう願う。

「全世界に知ってほしい。パキスタン人は芸術家であって、テロリストじゃないことを」。

■ニューヨーク公演も決定

さらに動画をBBCが取り上げたことで、世界的なトランペット奏者ウイントン・マルサリスから声がかかった。彼が率いるオーケストラとニューヨークで共演してくれというのだ。

こうしてあっという間にニューヨークの大舞台での公演が決定したが、全てが順調というわけではなかった。

サッチャル・ジャズ・アンサンブルのメンバーたちは、パキスタンで生まれ育った昔気質の音楽職人たち。英語をあまり話せない上に、譜面も読めない。さらにジャズの演奏どころか、聴いたことすらほとんどなかったという。

当然ながら現地のオーケストラとのセッションもうまくいかず、マルサリス自身からも厳しいダメ出しが飛ぶ。

しかしこうした困難を必死の職人魂で乗り越えていった彼らは、見事に公演を成功させた。イスラム化によって一度は音楽の道をあきらめざるを得なかった彼らが、長年の無念を晴らすことができた瞬間だったのかもしれない。

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サッチャル・ジャズ・アンサンブルによるニューヨーク公演

■ドキュメンタリー映画が公開

そんなサッチャル・ジャズ・アンサンブルの超絶演奏が世界中を虜にするまでの紆余曲折を追ったドキュメンタリー映画「ソング・オブ・ラホール」が、8月13日から公開される。日本の著名人による映画へのコメントも集まっている。

「一人一人が超絶テクニシャンなのに、生きるのだけが不器用なオヤジ音楽家たち。その内なる思いを知るにつけ胸が熱くなる!!」(サラーム海上)

「サッチャル・ストゥーディオス・オーケストラ『テイク・ファイブ』をYouTubeで見た時はぶっ飛んだし、すぐ彼らのパキスタン・ジャズを聴いた。それがどのくらいの社会的音楽的困難の上にあったか、『ソング・オブ・ラホール』でしみじみ知った」(いとうせいこう)

「2011年から局地的に話題をさらっていた謎のオーケストラの、結成に至る背景をやっと知ることができました。映画終盤、バーンスリー奏者バーキル・アッバースによる魂のこもった演奏が本当に素晴らしかったです」(ユザーン)

映画「ソング・オブ・ラホール」予告編

■来日公演も決定

さらにサッチャル・ジャズ・アンサンブルによる初来日無料公演が決定したそう。

ただし来日にあたって費用がそれなりにかかるため、現在クラウドファンディングのプラットフォーム「MotionGallery」で来日費用の支援金募集をしている。さらに無料公演とは別に、支援者向けのプライベートコンサートが付くコースも用意されているそう。

こちらに主催者側のメッセージをのせますので、ご興味ある方はぜひ支援ください。
(私も早速支援させていただきました)。

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なんと、映画に出演しているサッチャル・ジャズ・アンサンブルの面々の来日が決まりました!映画『ソング・オブ・ラホール』を見ると、絶対にこの音を生で聴いてみたくなることは間違いありません!

来日は9月初旬を予定していますが、マネージャーも含めて11名の大所帯のため、招聘費用が不足しているため、支援者を募っております。

9月初旬に予定している無料ミニ公演は、サッチャル・ジャズ・アンサンブルの日本へのお披露目のようなもので、どなたでもご覧いただけるものですが、費用が不足しているのは事実ですので、どうかお力を貸していただけないでしょうか。

また、支援者のみが参加できるプライベートコンサートも予定しており、こちらは小規模でかなり贅沢です。支援の方法は、お好みのリターン(支援者特典)を選んで購入していただくのみと簡単です。(購入にはMotion Galleryの会員登録(無料)が必要です)

リターンは数コースありますが、お薦めは1万円の「プライベートコンサートご招待+映画鑑賞券他」コース。誰でも見られる無料公演とは別の支援者限定のプライベートコンサートに、映画鑑賞券やオリジナルグッズなどが付くリターンです。

その他コンサートのみの5000円コースや、コンサートをペアで見られて特典満載の3万円コースなどもございます。

プライベートコンサートは要らないけど支援したいという方には、映画鑑賞券がもらえるお手頃なコースや、公開記念イベントへのご招待がついたコースなどもございます。コースの詳細はMotion Galleryのサイトをご覧ください。

おおまかなスケジュール
●9月3日(土):第15回東京JAZZで無料ミニ公演(どなたでもご参加できます。)
●9月4日(日)夜 都内でプライベートコンサート(支援者への特典。小規模会場でとっても贅沢です!)

公演を成功させるためにも、どうか皆様のお力をお貸しください!

パキスタン伝統音楽×ジャズ!? サッチャル・ジャズ・アンサンブルの初来日公演にご支援を!
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■ソング・オブ・ラホール
公式ページ
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※参照情報
パキスタン伝統音楽×ジャズ!? サッチャル・ジャズ・アンサンブルの初来日公演にご支援を!
Pakistan’s Sachal Jazz Ensemble rises above the risks in ‘Song of Lahore’
The billionaire behind Sachal Studios Orchestra
劇映画よりドラマチック!な ドキュメンタリー『ソング・オブ・ラホール』