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ボリウッドソングが圧倒的マジョリティーを占めるインドの音楽シーンにおいて、インディーミュージックは市場が非常に小さいマイナーな存在。かつ2つの音楽は全く別々の世界としてリスナー層も断絶しがちなように思います。インディーアーティストもお金を稼ぐ手段としてボリウッドで仕事をすることはあっても、何かの作品の表現として2つの世界が交わることは中々ない。

そういった状況の中で、2015年4月公開予定のボリウッド映画”Detective Byomkesh Bakshy!”が画期的なのは、映画のサントラにいつもながらのボリウッドのヒットメーカーではなく、インド国内のインディーアーティストだけを起用している点。しかも作品の舞台は1940年代のコルカタという時代物の作品にもかかわらず。

サントラとしてインディー音楽を使うことを決めた監督のDibakar Banerjeeは、コメディ映画“Oye Lucky!Lucky Oye!”などのヒット作で知られる気鋭の映画人。

彼は今回のサントラについて、「以前は、映画のサントラとは単なるバックグランウンドミュージックだと考えていた。でも単体で十分聴ける楽曲を使うのもいいんじゃないかと、徐々に考えるようになった。その曲独自のエモーションを映画に挿入することで、ストーリーに奥行きが出るからね」と語る。

起用されたインディーアーティストとしても、自身の作品を広くアピールするための絶好のチャンスとみているよう。今回のサントラに曲を提供したムンバイ出身のエレクトロポップデュオMadboy/Minkの女性ボーカルSaba Azadは、「ボリウッド映画の影響力はとても大きい。自分たちの音楽を届けるには良い手段になる」と話す。同じく楽曲を提供しているベンガルールのロックデュオmode.AKAのベーシストSandeep Madhavanは「ボリウッドファンからの反発があると思っていたが、うまくいったんじゃないか」と語る。実際GQ Indiaもこのサントラについて「素晴らしい」と賞賛する記事を出している。

”Detective Byomkesh Bakshy!”は1940年代のコルカタの私立探偵Byomkeshが主人公の映画。この作品に楽曲を提供している7組のアーティストを紹介。

1.Madboy/Mink
Madboy/Minkはムンバイ出身のエレクトロポップデュオ。男性ミュージシャンのImaad Shahと女性ボーカルのSaba Azadの2人によるユニットで、2014年4月にデビューアルバム”All Ball“をリリース。すでにインドのオルタナシーンでは一定の人気を誇っており、ボーカルのSabaは、インドのRolling Stone誌が選ぶ注目女性アーティストの一人に選ばれている。

こちらは今回の映画のサントラで、デビューアルバム”All Ball”にも収録されている”Calcutta Kiss”(アルバムでは”Taste Your Kiss”)。批評家の間では「アップテンポでジャジー。アルバムの一曲目にふさわしい曲だ」などと評価されており、サントラの中では一番人気・評価が高い曲のよう。

デビューアルバムの一曲目に収録の”Alley Cats”の演奏シーン。

Soundcloud(Madboy/Mink)
Facebook(Madboy/Mink)

2.Sneha Khanwalkar
Sneha Khanwalkarは、インドール出身の映画音楽ディレクター。ヒンディー映画版アカデミー賞(?)といえるFilmware Awardsにおいて、ベストミュージックディレクターにノミネートされた経歴を持ち、今回のサントラの参画者の中では、唯一インディシーンの外で名前が知られる存在。

3.Blek
Blekは、ムンバイの3人組オルタナパンクバンド。2012年2月にデビューアルバム”Hexes + Drama & Other Reasons For Evacuation”をリリースしている。

BlekのフロントマンRishi Bradooは今回のサントラについて、「(監督の)Dibakarの作品は素晴らしいと思っていたから、ボリウッド映画に音楽を提供することに抵抗はなかった」。サントラに含まれている彼らの曲“Byomkesh In Love”は、今回の映画のための書き下ろしとなる。

Soundcloud(Blek)
Facebook(Blek)

4.Peter Cat Recording Co.
Peter Cat Recording Co.(PCRC)は、デリーを中心に活動する4人組オルタナサイケバンド。古いボリウッド音楽や1950年代のハリウッド映画にインスパイアされたというレトロな楽曲が特徴。デリーのインディーシーンを代表するアーティストの一人。またサイドプロジェクトとして、ボーカルのSuryakantは、”Lifafa”名義でエレクトロニカを、その他メンバーの内2人がBegumというオルタナバンドとして活動しており、いずれもシーンの中で人気を博している。

今回のサントラには、2011年のデビューアルバム”Sinema”の一曲目”Pariquel”が使われた(サントラ内でのタイトルは”Jaanam”)。「監督がこの曲のサウンドやレコーディングの仕方を気に入ってくれて、映画で使いたいと申し出てきたんだ」(Suryakant)。

デビューアルバムに収録の楽曲で、サイケなサウンドと映像の”Love Demons”のPV。

Soundcloud(Peter Cat Recording Co.)
Facebook(Peter Cat Recording Co.)

5.mode.AKA
mode.AKAは、ベンガルール出身のロックデュオ。2013年に結成したばかりにもかかわらず、人気監督による映画への楽曲提供という大きなチャンスを得た形になった。

mode.AKAのベーシストSandeep Madhavanは「2014年の終わり頃に、監督が僕らの曲を映画で使いたいとオファーしてきたんだ。ボリウッドには詳しくなかったから彼の名前は知らなかった。検索してみると、有名な映画人だと知って驚いたんだ」と話す。

ボリウッド映画に採用された自分たちの曲が好評を得たのには、驚きだという。「ボリウッドファンからは反発があると思っていたけど、うまくいったようだ」(Sandeep)。

こちらはサントラに収録された”Chase In Chinatown”。

Soundcloud(mode.AKA)
Facebook(mode.AKA)

6.Joint Family
“Joint Family”はデリー出身の5人組メタルバンド。2004年に結成しファーストアルバムをリリース。2007年には解散したものの、今回のサントラへの参加をきっかけに再結成した。現在セカンドアルバムを制作中だという。

今回のサントラに収録の“Life’s A Bitch”。

Facebook(Joint Family)

7.IJA
IJAは、デリーで2014年8月に結成した3人組エレクトロユニット。4曲入りのデビューEP”VitaAmin Sex”を2015年3月にリリースしたばかり。メンバーの一人でパーカッショニストのSahil Mendirattaは、Mars VoltaやToolのような音楽を集中して聴いていた時期があったというが、「自分たちの音楽のジャンルにはこだわらない。聴いてもらえればわかるけど、いろいろな作品に影響されている」と話す。

別のメンバーのAshar Farooquiは「監督のDibakarは、サントラの楽曲作りには干渉しないと明言してくれたから、やりやすかった」と語れば、Dibakarも「彼らの音楽素晴らしい。骨身に響くサウンドだ」と賞賛する。

サントラに収録されたIJAの楽曲”Yang Guang Lives”

IJAのデビューEP”VitaAmin Sex”。

Soundcloud(IJA)
Facebook(IJA)

※参照情報
Inside the Soundtrack of ‘Detective Byomkesh Bakshy’
Detective Byomkesh Bakshy!
Music Review: Detective Byomkesh Bakshy!
Sneha Khanwalkar
Blek
Peter Cat Recording Co. to release new single and new album
Bengaluru Electronica Duo Mode.AKA to Release Debut Album
JOINT FAMILY REUNITE AT BIG69!
LISTEN: IJA RELEASES DEBUT EP ‘VITAMIN SEX’
IJA Release Debut EP