インド音楽シーンを彩る、注目女性アーティスト14人を一挙紹介!(前編)
インドのRolling Stone誌の3月号が、女性アーティスト特集を組んでいました。選出された顔ぶれをみてみると、ブルースやジャズからエレクトロニカ、ロックまで、幅広いジャンルの最前線で活躍するアーティストが揃っています。
インドのインディー音楽シーン(非ボリウッドソング)で女性アーティストが特に活躍した時代といえば1990年代。1995年リリースのシングル”Made in India”がモンスターヒットになったAlisha Chinaiや、1994年に代表曲“Paree Hoon main”で一躍ポップスターに上り詰めたSuneeta Raoなどが思い浮かびます。ただ今回の特集で紹介されているアーティストの充実ぶりをみてみると、2010年代のシーンは過去のどの時点よりも粒ぞろいの時代だなーと感じます。とはいえ「女性」という大雑把なくくりで特集が成立するというのは、まだまだアーティストの裾野が狭いことの裏返しでもあるともいえますが。
彼女たちの楽曲が聴ける各種リンクも貼ったので、お気に入りのアーティストを見つけてみてください。
Anushka Manchandaは、デリー出身のシンガー。俳優やモデルとしても活躍。ノイダの高校卒業後の2002年にオーディション番組で優勝をきっかけに芸能界入りし、ガールズバンドViva!のメンバーとしてデビューする。バンドは2003年のセカンドアルバムを最後に解散してしまうものの、Manchanda は2004年からタミル映画のプレイバックシンガーとして転身。2006年からはヒンディー映画のプレイバックシンガーも務めるようになる。
「ボリウッドは刺激に満ちた場所だったけれども、最初は居場所がなかった」と話すも、Vishal-ShekharやAnu Malik、Salim-Sulaimanなど相次いで著名なコンポーザーたちの楽曲を歌うようになる。2011年には、映画”Dum Maro Dum”の挿入歌”dum maro dum”でヒットを飛ばすなど実績も残した。ちなみにこの曲は女性プレイバックシンガーの大御所Asha Bhosleが70年代に歌った曲。
こちらは1962年のボリウッド映画”Bees Saal Baad”の挿入歌のアコースティックカバー。
・Soundcloud(Anushka Manchanda)
・YouTubeチャンネル(Anushka Manchanda)
・Facebook(Anushka Manchanda)
Tipriti Kharbangarは、メガラヤ州シロン出身のブルースバンドSoulmateのボーカリスト。基本的なメンバーはキーボードのKaran Josephとの2人で、曲にあわせて様々な演奏者を迎えるスタイルをとっている。
地元のシロンがある北東部にもバンドは多いけれども「皆シャイだったり自信がなかったりで中々チャンスをつかむことができない」とか。
そういった状況の中、彼らはデリーやムンバイ、バンガロールを中心とした国内だけでなく、アメリカやヨーロッパ(パリのディズニーランドでライブしたことも)でも演奏するなど、積極的に外に繰り出している。アメリカでのライブでは「インド人なのにミシシッピのソウルがある」と驚かれたとか。
ネパールの首都カトマンズにあるAttic Barでの演奏の様子。
・YouTubeチャンネル(Soulmate)
・Faceboook(Tipriti Kharbangar)
Monica Dograは、アメリカ生まれのシンガー兼女優。音楽方面では、2005年からムンバイを拠点とするエレクトロデュオShaa’ir and Funcのボーカルとして活動しているほか、女優としては2010年にトロント映画祭に出品されたインド映画「Dhobi Ghat」に主演するなど、多彩な方面で活躍している。
コルカタ出身のポップロックバンドThe Ganesh Talkiesのボーカルで、今回の特集の一人にも選ばれているSuyasha Senguptaは、Monicaのファンだという。「Shaa’ir and FuncのPV”Oops”を十代の時に見た時は、数週間曲が頭から離れなかった(〜中略〜)男社会のインドの音楽シーンで女性が活躍するのは簡単ではない。女性的な雰囲気を完全に抑えるか、もしくは女性らしさを徹底的にアピールするかの両極端になりがちになる。Monicaは、その2つのバランスをうまく取っている」と話す。
この曲はMidival Punditzのメンバーの一人がプロデュースした曲”Good Thing”。
・YouTubeチャンネル(Shaa’ir and Func)
・Soundcloud(Shaa’ir and Func)
・Facebook(Shaa’ir and Func)
Vasuda Sharmaは、ムンバイを中心に活動するシンガーソングライター。2002年にテレビのオーディション番組に出演したことをきっかけに、バンドとしてデビュー。デビューシングルの”Chandu Ke Chacha”は若者の間でアンセムソングになるほどのヒットになるなど、一躍有名アーティストの仲間入りを果たした。しかし数年間音楽活動を続けた後、突如としてボストンにあるバークリー音楽大学院に留学する。
「音楽のセオリーを学びたかった。コードを少し知っている程度の知識しかなかったから。それとしがらみのある自分の国を抜け出して、広い世界をみてみたかった」(Shama)。
そして2012年に帰国し、ムンバイにて凱旋ライブを果たす。留学による自身の変化についてSharmaは、「他のミュージシャンとの作業が楽になった。いくら曲のアイデアがあっても知識がなかったらバンドに伝えられない。今なら自分でバンドを率いることもできる」と話す。
こちらはSharmaの曲”Maajhi”。「私の音楽に初めて触れるリスナーに最初に聴いてもらいたい曲」として挙げている。
・YouTubeチャンネル(Vasuda Sharma)
・Soundcloud(Vasuda Sharma)
・Facebook(Vasuda Sharma)
Jayashree Singhは、コルカタを拠点とするエレクトロニックジャズバンドPINKNOISEのボーカル。もとはほぼ同じメンバーでロックバンドSkinny Alleyとして活動しており、こちらはインドロックの歴史に名前を残すグループとして、すでに伝説的な存在になっている。
彼女のインディー音楽シーンへの影響力は大きく、今回の特集にも含まれているプレイバックシンガーのSuman Sridharは、「Jayへの尊敬の気持ちは一言では言い表せない。大きくなったら彼女のようになりたいと思っていた」と話す。
PINKNOISEは、バンドメンバーのうちベーシストが夫のGyan Singh、ドラマーが息子のJivraj Singhとまさにファミリープロジェクト。しかしファーストアルバムをレコーディング中の2012年11月、夫のGyanがガンで他界してしまう。Gyanは死の数ヶ月前にベーストラックのレコーディングを全て済ませていたが、Jayashreeは夫の死によって「レコーディングを進める気力が失せてしまった」という。しかし息子のJivrajは「今やらなかったらもう二度とアルバムを完成させることはできない。お父さんはこれまでで最高の音を残してくれたのだから、これを無駄にするわけにはいかない」とレコーディングを強行。2014年にアルバム”The Dance of the Diaspora”のリリースにこぎつける。
ただ「今後Gyanの穴を埋めることは不可能」(Jayashree)だといい、ライブでは過去に録音されたGyanのベースを使う形で演奏しているという。バンドの核となっていた存在がいなくなったことで、次の作品をどのように制作するのか注目されている。
こちらはアルバムからのファーストシングル”Bumble Bee”。
・Vimeoチャンネル(PINKNOISE)
・Soundcloud(PINKNOISE)
・Facebook(PINKNOISE)
Suman Sridharは、ムンバイ出身のシンガーソングライター・プレイバックシンガー。インドの伝統音楽やジャズ、ブルース、キャバレーミュージックなど多様な要素を盛り込んだ楽曲を歌っている。音楽に本格的に興味を持ち始めたのは、14歳の時にアメリカのニュージャージーに移り住んてから。当時はラッパーのバスタ・ライムスやR&B歌手のローリン・ヒルのファンだったという。現地の大学で音楽を学んだ後、2012年にポストポップデュオSridhar/Thayilとしてデビューアルバム”STD”をリリースする。このアルバムはRolling Stone誌の2014年の特集「過去25年間のインドロックベスト25」の中の一枚に選ばれている。
・Vimeoチャンネル(Suman Sridhar)
・Soundcloud(Suman Sridhar)
・Facebook(Suman Sridhar)
Sanaya Ardeshirは、ムンバイ出身の音楽プロデューサー、キーボーディスト。Sandunes名義でジャズやファンク、トリップホップの要素を含んだエレクトロニカを出しており、今やインドのインディー音楽シーンを代表する存在の一人になっている。
彼女の音楽の原点は7歳から始めたクラシックピアノ。インドのエレクトロニックシーンで活躍する女性アーティストTanvi Raoは、彼女について「Sanayaのピアノ的なセンスは音楽全体から滲み出ている。クラブにすごくマッチする音けど、同時に誠実な感じもする」と話している。
・Soundcloud(Sandunes)
・Facebook(Sandunes)
後編に続きます。
Indian Music Catalogの公式Facebookはこちら
※参照情報
・Anushka Manchanda
・Soulmate
・Bangalore respects music and musicians: Tipriti Kharbangar
・Who is Vasuda Sharma?
・PINKNOISE RELEASES DEBUT LP – ‘THE DANCE OF THE DIASPORA’
・PINKNOISE Release The Dance Of The Diaspora, LP
・Interview: PINKNOISE
・Stream PINKNOISE’s Debut The dance of the diaspora
・Suman Sridhar
・SANAYA ARDESHIR